岡崎宏司の考察と結論
アウディ ブランドとは? その1
アウディは時代の風向きを
完璧に帆に捉えている
アウディは今、もっとも輝いているブランドだ。それもクールに輝いている……。
だから今、アウディに、とくにアッパーセグメントのアウディに乗ることは、最先端のトレンドを織り込んだ上等なスーツを着るようなものである。そして、事実アウディは、トレンドに敏感で、上等なスーツに目がないような男たちに絶大な支持を受けている。
たとえば、お洒落でリッチなミラノの男たちがその代表だ。もちろん、彼らはオフタイムの着こなしにも長けている。そう、ロロ・ピアーナのブルゾンやニットをサラッと着こなす……そんなセンスとインテリジェンスとデリカシーをもった男たちにこそ、アウディはもっともよく馴染むということである。
というと、「シングルフレームグリルがインテリジェンスとデリカシーの証なのか!」といった抗議の声も出てきそうだ。
確かに「控えめ」こそがアウディの美点だと思っていた人たちにとって、シングルフレームグリルは刺激的に過ぎるかもしれない。元々アウディ好きだった私も、初めて見たときは「エエッ!?」と目を疑った。が、すぐ慣れたし、すぐ肯定派になった。
私は過去、5台のアウディに乗ったが、周りが敏感に反応したのはTTだけ。他のアウディは、いわゆる「クルマ通」からはそれなりの反応はあったものの、世間一般というフレームではほぼ無反応だった。「アウディって高いんでしょう?。高いお金払って、どうしてこんな地味なクルマに乗るの?」といった言葉をかけられたことも少なくなかった。
もちろん私は、アウディが地味だなんて思ったことはないし、カッコいいと思うから乗っていたのだが、周りの目は違った。
でも、アウディがシングルフレームグリルを纏うようになって、ハタと気づいた。
プレミアムブランドとして一流の存在になるには、「知る人ぞ知る」では不十分だと気づいたのだ。いくら優れたクルマでも、自己満足の世界で完結せず、多くの人たちに広くアピールし、憧れを持たれる存在にならなければ一流にはなれないということである。
「技術による前進」の旗印の下、空力デザイン、クアトロシステム、アルミボディ、TDI、DSG、FSI等々、次々と先進技術を採用。デザイン、素材、仕上げ品質といった点でも、他の見本になるものを積み上げてきたアウディだが、最後に残されたもっとも大きく重要な課題が、「プレミアムブランドとしての、誰にでもわかる存在感の構築」だったのだろう。そして、その課題をクリアする切り札が「シングルフレームグリル」だったのではないか。いやきっとそうだ。
シングルフレームグリルの直接の先祖は、2003年のパリサロンに出展されたコンセプトカー、「ヌヴォラーリ・クアットロ」だが、私のイメージ(とくに縦桟の強調された場合)では、むしろ2000年のパリサロンに出展された「ローゼマイヤー・コンセプト」に思いが至る。
1938年1月、アウトバーン上での速度記録挑戦中、28歳の若さで不慮の死を遂げた、速く、巧く、強く、そして美しかった不世出のドライバー、ベルント・ローゼマイヤー(現代のドライバーになぞらえると、アイルトン・セナといったところだろうか)の駆ったアウトウニオン(アウディの前身)・タイプCを思い出すのだ。そう、私の場合、シングルフレームグリルは、アウディの歴史の中でももっとも鮮烈でロマンティックなイメージを今に残すマシンとドライバーに結びついている。つまり、プレミアムブランドの顔として十分な物語もあるし、資格もあると私は思っている。そんなことで、驚きとショックをほんのわずかな時間で乗り越えた後の私は、シングルフレームグリルの輝きと魅力に強く惹かれるようになったのだ。
プレミアムブランドは、使い手に多面的な満足感を与えなければならないが、中でも、周囲の視線がもたらす満足度は重要だ。
だから、シングルフレームグリルという強烈なインパクトを得たアウディが、その後、プレミアムブランドとして一気に認知度を高め、メルセデスを、BMWを猛追する態勢が整ったのも当然だと思う。さらに、シングルフレームグリルのインパクトを得たことで、エレガントでスポーティな佇い、精緻な仕上げ品質、インテリジェンスと熱い情熱が同居したインテリア……元々アウディがもっていた長所美点もさらに輝きを増している。
ところで、今年6月、レース史上初となるディーゼルエンジン搭載マシン=アウディ・R10が、ルマン24時間レースを制覇したことは記憶に新しいが、幸いなことに私もその歴史的瞬間に立ち会うことができた。
アウディ・R10のV12・TDIは、2個のディ−ゼル粒子フィルターを装着し、650ps/1100Nmを発揮。信じられないような低く静かな唸りと共にルマンを席巻した。アウディは新しい時代を切り拓いた。
そして最近、驚いたことに、アウディは、このルマンウィナーを連想させる、6L・V12、500ps/1000NmのTDIエンジンをQ7に積むと発表したのだ。
このモンスターSUVは、0〜100km/hを5.5秒で走り切り、250km/hの最高速度(リミッター作動)を引き出すと共に、2010年に施工されるユーロ5に適合する排出ガス基準をクリア。約8.4kkm/lの燃費をも実現しているのである。
ルマンのR10のように、このモンスターも静かに平然とライバルたちをブチ抜き、新しい伝説を創りあげることになるだろう。
いつの時代も、突出したパフォーマンスやテクノロジーは、ブランドキャラクターやブランドバリューに大きくかかわる物語を生み出す。アウディは、デザインやパフォーマンスをも含めた「技術による前進」を着実に、しかも効果的に実践している。アウディは時代の風向きを完璧にその帆に捉えている。
(『@ZINO』2007年掲載記事)

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1940年東京生まれ。日本大学芸術学部放送学科卒業。文化的側面からクルマを斬る自動車評論家。輸入車がレアだった45年以上前に、「旅行に行くから」と言って借りた、父のノーマルのベンツでラリーに出場し、優勝したという、やんちゃな過去も。




