ロデオドライブの風景を変えた
新世代ベントレー その1
ベントレーが重々しさを脱ぎ捨てカジュアルに進化
LAでももっとも豊かで、もっともトレンディな人たちが集まるロデオドライブ周辺は、贅沢なクルマたちが集まるスポットでもある。

片側2車線の車道と、パームトゥリーが影を落とすゆったりした歩道沿いには、有名ファッションブランドが軒を連ねる。私はここを散歩するのが好きで、LAに行く度に足を運ぶ。だから、LAでプライベートな時を過ごすときは、たいていフォーシーズンズ・ビバリーウィルシャーに泊まる。信号ひとつ渡ればロデオドライブという立地にあるからだ。エレガントで快適なホテルだが、夜はジャズのライブがあるロビーラウンジも気に入っている。有名ファッションブランドが集まるエリアは、世界の大都市には必ずあるし、日本でもこと欠かない。
でも、私はなぜかロデオドライブが好きだ。その理由は、たぶん、車道と歩道と低層に統一された店のサイズ感のバランスが心地よいこと、人の数が多すぎず少なすぎもしないこと、適度な距離感を保った洗練された店の対応、南カリフォルニアの高く広く明るい空の下にあること……等々にあるのだと思う。周辺には気の利いたレストランもいろいろあるし、ひと息入れたくなったら、ロデオドライブに面した小さなホテルの玄関口にちょこっと置かれたテーブルでコーヒーを飲む。そして、道行く人たちを、ゆっくりと通り過ぎるクルマたちを、なんとはなしに眺める……とても気に入っている時間の過ごし方である。
ところで、最近のロデオドライブ周辺で目につくクルマのひとつがベントレー。とくにコンチネンタルGTが目立つが、それをさらに目立たせているのがステアリングの握り手に女性が多いということだ。
柔らかくなめらかな風合いと、ソフトフォーカスがかかったような微妙な色合いの生地、優しいシルエットでありながらどこか威厳を感じさせる……そう、アルマーニのスーツを着たような女性が目立つのだ。つまり、そんなキャリアを積んだ女性とコンチネンタルGTのコンビネーションは映える。
話の流れの都合上、「ロデオドライブで」と言っているが、実際はロデオドライブの北西と南東の端で接しているウィルシャーブールバードとサンタモニカブールバード、そしてロデオドライブを横切るブライトンウェイで、その姿を見かけるのがほとんどだ。つまり、彼女たちは、ロデオドライブに買い物にきているわけではなく、仕事中の移動なのである。
ケータイを使いながら運転しているシーンもよく見かける。濃口のボディカラーのコンチネンタルGTに、背筋をきれいに伸ばしたスーツ姿で乗り、キリッとした表情でケータイで話している女性……これは、ベントレーブランドの今を象徴的に示しているシーンではないかと私には思える。
かつてのベントレーにはこうしたシーンはまったく馴染まなかった。ロールスロイスよりスポーティではあったが、やはり「サーとかマジェスティと呼ばれるような人たちのクルマ」といった重々しさが付き纏っていた。アルマーニのスーツを着た女性がケイタイを使いながら運転する……そんなシーンがゾクゾクするほど素敵に映えるベントレーなど、まったく想像できなかった。

「ベントレーブランド」が並のプレミアムブランドとはかけ離れた地位を持つことは、多くの人が知っているし、伝統のメッシュグリルとウィングBのエンブレムも、無言のうちにその地位を物語っている。
しかし、そんな事実と同時に、最新のベントレーは、かつてのベントレーのような「近づき難さ」が薄められていることにも気づいている人は少なくないはずだ。とくに、コンチネンタルGTと、今回ピックップしたコンチネンタルGTCにはそんな印象が強い。一方で「伝統的なわかりやすい超高級車像」をしっかり描き出しながら、もう一方では、モダンなディテールを取り込み、敢えてシンプルな表現を取り込むことによって、必要以上の重々しさを削ぎ落としている。
インテリアにはもちろん最上の革とウッドとクロームが使われているが、それらは贅沢さを示してはいても、過剰さは抑えられている。ブライトリンクの時計やエアコンルーバーのノブはクラシックだが、メーターやスイッチ類、ステアリングホイール等々のデザインは、伝統とモダンが巧みに重ねられている。贅沢さへの要求をたっぷり満たしながらも重々しさは感じさせない。それは、格式に縛られた重苦しいフォーマルウェアに対して、礼を失することなく楽しく着られる今時のフォーマルウェアにも喩えられる。乗り降りのしやすさも、新世代ベントレーの長所の一つである。これは日常性という点でとても重要なことであり、スマートな身のこなしで乗り降りできることにも繋がる。
アルマーニのスーツを愛用するような、アクティブでエレガントな女性に愛される理由のひとつになっているのは、間違いないだろう。今年はまだLAに行っていないので、ロデオドライブ周辺を走るGTCの姿を直接は見ていない。しかし予想通り、GTCはアメリカのセレブリティたちのハートをがっちり掴んでいるようである。
(『zino』2008年1月号掲載記事)




1940年東京生まれ。日本大学芸術学部放送学科卒業。文化的側面からクルマを斬る自動車評論家。輸入車がレアだった45年以上前に、「旅行に行くから」と言って借りた、父のノーマルのベンツでラリーに出場し、優勝したという、やんちゃな過去も。




